争うことのないミツバチ 1

ミツバチの社会は、争いのない社会です。彼らの飼育箱は春から夏にかけて、個体数が5000匹を超えることも珍しくありませんが、その飼育箱の群が隣接する他の飼育箱の群と縄張り争いをしたり、女王が先頭に立って他群に攻撃を仕掛けたりするなどということはありません。

彼らの社会を構成している要の女王蜂は、そもそも適者生存で他の働きバチを勝ち抜いてその座に君臨する「王」ではありませんし、女王蜂が働きバチ(雌バチのみ)や働くことのない雄バチを統治しているわけでもありません。それぞれが、それぞれの役割を忠実に果たすという「無私」の精神で彼らの社会滞りなく1年間のルーティーンを繰り返し、私たちは彼らからはちみつというプロダクツの恩恵に数千年間も預かって来ました。

女王蜂と働きバチ

女王蜂の役割は、2-3年にわたるその生涯で、産卵のみに従事するので、巣の外に出るのは、交尾するための一度だけです。働きバチは自分たちの社会を維持するための卵から生まれる新生児の管理、面倒を見る係、彼らの食糧となるはちみつと花粉の加工貯蔵係、そして外に出て花蜜と花粉を収集し巣に運ぶ係に分かれて構成されています。

 

雄バチは、女王蜂との交尾のみが生涯の仕事で、自らは生産的な仕事をすることはありません。働きバチ(雌のみ)に比べて、一回りおおきな雄バチですが、働きバチを外敵から守ったり、働きバチの労働をサポートしかつ、巣に入り口を見張ったりするということは残念ながらありません。

ミツバチの生活 5-ミツバチの越冬生活

11月も終わりに近づき、養蜂場のスズメバチ対策のためのネットが解除されました。9月から11月はじめ頃までミツバチ群を襲ってきた彼らの姿は、もう養蜂場にはありません。

 

ミツバチの女王が2-3年生きて、その群、すなわち社会を保つのに比べ、女王の命が1年のスズメバチは、今の時期に彼らの社会であった「巣」も終焉を迎えます。

 

さて、ミツバチ群の冬ですが、野生の状態では、今までに彼らが一所懸命に貯めた餌としての蜜をこの時期から来春まで消費して群を維持します。養蜂場にあっては、彼らの貯蔵した蜜は、暫時搾っているので、不足分を人工的に給餌しないといけません。活動のエネルギー源としてはショ糖を、巣作りや幼虫への給餌としては、花粉エキスをそれぞれの群に補完します。

 

冬の時期でも咲く花があるのは、ネットで検索すれば驚くほどたくさん出てきます。それらを外勤ミツバチは、しっかり探し、蜜を集め小さくなった群に戻ってきます。

 

余談ですが、菅原道真大宰府に左遷される時に詠んだ歌、「東風吹かば 匂ひおこせよ梅の花 あるじなしとて春な忘れそ」は、旧暦睦月(現2月)に可憐に咲く梅の花を彷彿させます。その花の蜜を集めるミツバチ、その姿は昔も今も変わらないはずです。

ミツバチの生活 4-雄バチについて

私たち人間の社会から見ると、ミツバチ社会の雄は不思議でなりません。今まで複数回雄バチについて触れ、かつ働きバチはすべて雌バチであることを述べました。写真でもわかりますが、雄バチは雌バチよりも大きく、女王蜂よりも体長が数ミリ短いだけですが、その大きさゆえに、六角形の巣枠に働きバチが貯蔵した彼らの食糧としての蜜を雌バチのようにダイブして吸うことができません。雄バチは、働きバチから口移しで蜜をもらって生きています。

 

雄バチの体が大きいばかりでなく、その目も雌バチに比べると大きくできています。大きな体で飛び回り、その視力も鋭いことは、すなわち、女王蜂と交尾をするのに都合よく進化してきたとされています。

 

春から秋まで、彼らの社会が成長している時は、雌バチが餌を提供してくれますが、秋も深まってくる今頃は、雄バチの姿を確認することが残念ながらできません。潤沢な花蜜が枯渇する今、雄バチに与える貯蔵蜜もなくなり、結果的に彼らは巣の外に出ざるを得なく、自らの使命を全うし土に還っていきます。

ミツバチの生活 3-はちみつ作りの主役 雌バチ

ミツバチの共同生活とその社会の維持はすべて雌のミツバチで構成されています。彼女らは、孵化してすぐに、幼虫の世話をはじめ、集められたはちみつの水分を除いて濃縮させる作業や、自分の体内から蜜蝋を分泌して六角形の巣づくりをします。これらの内勤作業を終えると、巣から外に出て、その入り口で守衛さんとなり、自分の生涯の最終段階で命を落とすリスクの高い蜜集めへと飛び出していきます。

また、女王蜂の産卵を円滑にするため、細々としたサポートを提供する女王蜂付の働きバチも全て雌バチです。

 

私たちの日常で目にする昆虫のなかで、養蜂場で活動するミツバチほどその集団が組織的、合理的に運営されているものはないと思います。蝶、バッタ、カマキリ、カブトムシ、クワガタムシなど、親しみのある昆虫は、ミツバチのような社会もなければ、共同作業もありません。

 

そのミツバチの社会、主役はすべて雌バチが担っているのですが、雄バチにも雌バチと同じような役割がないのが、私には不思議でなりません。もちろん、ミツバチから見れば、人の社会ほど不思議なものはないことになるのでしょうが・・・。

ミツバチの生活 2-女王蜂の役割

女王蜂に与えられた役割は、産卵して自らの群を維持することにあります。女王蜂以外のミツバチ(=働きバチ=雌バチ)に産卵能力はありません。

 

ミツバチの社会(一群=巣箱一つ)は1匹の女王蜂と雌の働きバチ数千匹(春、夏の繁殖期には1万以上になることもあります)、そして全体の1割程度の雄バチによって構成されています。

 

女王という響きから、一群を統括したり、率いたりするといったリーダーシップが女王蜂にあるように想像されがちですが、ミツバチの社会では、群同士で花蜜の縄張り争いはあり得なく、女王蜂が他の群を攻撃するための指揮権を発動するこというようなことはありません。唯一、女王蜂が自らの群の3割ほどの働きバチを引き連れて離れるのは、分蜂といって、働きバチの数が増えて、新女王が誕生した時にのみ起こりますが、これは平和的分家といえますが、新女王でなく、旧女王が自分の群を出ていくところが興味深いところです。旧女王が、新女王と争ったり、追い落としたりすることはありません。

 

女王蜂が生み落とす卵は、将来の女王蜂用といった遺伝的なものが組み込まれることはなく、生まれてまもない時期に、与えられるローヤルゼリーという特別食によって養われた幼虫が、女王蜂になります。

ミツバチの生活 1-女王蜂

ミツバチの社会は女王蜂一匹、雌の働きバチがおおよそ8-9割、そして残りは雄バチによって構成されます。社会とは巣のことですが、幸いなことにミツバチは、人間が考案した巣箱に完璧なユニットしての社会を構成します。

中央の大きなハチが女王蜂

 

女王蜂(英語名:queen bee)とは、あくまでも人が便宜上命名しただけで、ミツバチ社会においては、女王の座は世襲下剋上、クーデターなどで生まれるわけではありません。そもそも、1匹の女王蜂が、他のハチを支配しているわけでも、管理しているわけでもありません。

 

女王蜂は、その社会を構成する群のミツバチの数が激増する春から夏にかけて誕生します。ミツバチ人口(個体数)が増えても、彼らの社会は無限大に拡大するわけではありません。効率よく群を維持するために、それまで群を維持していた女王蜂は、群の1/3程度のミツバチと共に、新たな社会を創るために、古巣から外界へと飛び出して行きます。

 

新たな女王蜂が生まれるための基本は、王台と呼ばれる新女王誕生のための大型の巣枠にあります。これを作るのは、もちろん働きバチですが、彼らには、個体数が増えることと、健全なる群の維持というバランスをうまく保つ知識としての新女王育成のプログラムが組み込まれているのでしょう。

六角形の通常の巣枠より大きな3つの筒型が王台

王台に生まれた卵が孵化すると、その幼虫にはローヤルゼリーというアミノ酸とビタミンとでほぼ構成された特別食が与えられます。この特別食で群のなかで唯一、働きバチよりも10倍くらいの平均寿命と産卵能力を持つことになる女王蜂が誕生します。

はちみつによる抗酸化効果

純粋なはちみつ、特に色の濃いものにはポリフェノール、フラボノイドといった抗酸化物質が多く含まれていると言われています。この抗酸化物質は体内で発生する活性酸素を中和する働きがあるといわれています。

 

ポリフェノールが多く含まれるといわれる濃厚色はちみつですが、国産で非加熱となると、身近に手軽に見つからないかもしれません。

 

テレビや健康関連のメディアでよく耳にする活性酸素ですが、この体内に発生するいわゆる「さび」は、免疫機能の低下や老化を引き起こし、動脈硬化の原因となったり、がん、糖尿病、心臓疾患などを引き起こしたりする可能性があると言われています。

 

ポリフェノールやフラボノイドを多く含む食べ物の特集は、メディアにあふれていますが、日常で定期的に飽きずに継続的に摂取できるものとなると、簡単に見つけ出すことができません。

 

そこで注目されるのがが「はちみつ」です。幸いなことに、息子たちの養蜂場が最も得意とする単花はちみつは、夏の真っ盛り8月に開花するカラスザンショウですが、この濃厚な色のはちみつはもちろん、非加熱で加工され、ミツバチが採取した蜜に何も足さず、引かずにはちみつとして市販されます。

 

たとえばコーヒー、紅茶や朝のトースト、パンケーキ、ヨーグルトなどへの甘味をはちみつに替えることで、長い目で見て健康に繋がることを実感しているのは私自身です。